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ヘリコプターから承認をばらまく

承認の量的緩和が日本を救う

「嫁力」発言が詳らかにする四ノ宮しおりと木春由乃の断絶について、あるいはサクラクエストをフェミニズム作品として読むためのメモ

※この記事はサクラクエスト第4話『孤高のアルケミスト』の視聴を前提としています。

趣旨

サクラクエスト第4話『孤高のアルケミスト』にでてくる「嫁力」という言葉をねちねち解釈していこうというのがこの記事の趣旨です。

セリフの経緯

木春由乃たちの町おこしグループに参加することを決めた香月早苗はこれまで住んでいた古民家から彼女たちが集まるログハウスに引っ越しを行い、それをみんなで手伝うことになりました。荷物も全て運び込み、ひと段落というところで「嫁力」という言葉が発せられます。以下書き起こします。

真希「お腹すいた。ちょっと休憩しない?」

凛々子「引っ越しそば」

由乃「アンジェリカさんのお店に行く?」

早苗「今日の日替わりは……カツカレー」

しおり「大丈夫。家からお蕎麦持ってきたよ。茹でるから、ちょっと待っててね」

真希&早苗「「おお~」」

由乃「圧倒的な嫁力……!」

このセリフを木春由乃の何気ないひとこととして処理してしまうのは簡単です。ですがここではあえて深読みを行い、これまでに描写されてきた二人の来歴からこの「嫁力」の含意について考えます。

これまでのキャラ設定のおさらい

木春由乃

  • 少なくとも短大の2年間親元を離れ東京で生活した経験がある。
  • 田舎での生活を嫌がっている。

 四ノ宮しおり

  • 地元を離れて生活した経験があるかは不明。*1
  • 他のメインキャラと異なり、田舎出身かつ地元が大好き
他のキャラが、
  • いったんは地元を飛び出したものの、夢破れて帰ってきた(緑川真希)
  • 間野山は嫌いだが出ていく勇気もない(織部凛々子)
  • 東京出身だが無理な働き方で身体を壊し、逃げるようにして田舎に来た(香月早苗)

であることを考えると、「田舎育ち」という枠で、木春由乃と最も対照的なキャラは四ノ宮しおりであるといえるでしょう。

 第1話の宴会の裏で何が行われていたか

ここで少し唐突ですが、第1話Bパートの宴会シーンを思い返していただきたいと思います。何かに気がつかなかったでしょうか? そう、この宴会で腰を下ろしているのは主賓である木春由乃のほかは、男衆だけなのです。そして女衆(と言っても会長の妻と四ノ宮しおりだけですが……)はというと給仕係を務めています。そしてなんと、四ノ宮しおりは宴会後に木春由乃車で送迎します。つまり、お酒を飲んでいません*2*3

そして送迎の車内で、それぞれの田舎について以下の会話が交わされます。

由乃「まっくら……」

しおり「でも本当に良かった。由乃ちゃんがこの仕事引き受けてくれて……あっ、由乃ちゃんって呼んでも良いよね?」

由乃「あっ……う、うん」

しおり「私のことはしおりでいいよ。由乃ちゃん驚いたでしょ、おじいちゃんたちみんな元気だから

由乃「うん、でもうちの田舎もあんな感じ

ここでの木春由乃の「あんな感じ」には、どのような解釈が考えられるでしょうか。

  1. その前の四ノ宮しおりの「みんな元気だから」へのたんなる返答。
  2. 田舎の「空気感」、特に厨房仕事は女房にまかせ、宴席などではどっかり座っている男たちの様子。
1.を採用すればこの話は即終了です。ねちねち解釈することを標榜する本記事では2.を採用します。この解釈を取った場合、たんに「元気なおじいちゃんたち」を微笑ましく思っているようなふしのある四ノ宮しおりと木春由乃の会話は、一見成立しているように見えて噛み合っていない、溝のあるものになります。さらに四ノ宮しおりは1.の前提でコミュニケーションをしているととらえるのが妥当*4ですから、この会話の中において、含みを持っているのは木春由乃の側と言えます。

「彼女と私の違い」を確認するための「嫁力」発言

サクラクエスト本編において四ノ宮しおりは観光協会の男性職員たちがそもそも呼ぶ人間を間違えたり誤発注をしたりするのとは対照的に、かなり事務能力が高く描写されていますし、コミュニケーション能力も地域の人脈を掴んでいる描写を考えるとかなりあると言えるでしょう。木春由乃をして「この人はなんで東京で就職せずにここに残るのか、『地元愛』だけでそんなことが出来るのか」という思いを抱かせるにいたる材料はそろっているように見えます。その上で「家庭的なこと」を粛々とこなせる四ノ宮しおりを、田舎出身で「田舎の嫁」に求められるものを理解しているからこそ、木春由乃は理解することができず、「彼女と私は違う」ということを確認する儀式を行う必要があったのではないか。もっと分かりやすく言い換えれば、家父長制から逃げることを考えている女性が、家父長制に順応しているように見える(しかも仕事ができる)女性を見たときについ示してしまった理解を拒絶する反応なのではないか。というのが今のところの結論になります。家父長制に対する対照的な姿勢をまとった(ように、少なくとも現時点では見える)二人の女性が抱える断絶が序盤のほうで示されているというのは、今後の関係いかんによってはサクラクエストフェミニズム作品として位置付けることができる可能性があるとを示していると、私は考えます。

*1:あったとしても、付き合いのまだ浅い木春由乃が知っている可能性は低いと考えられます。

*2:もちろん飲酒運転の可能性はありますが、リスクを犯してそうした描写を入れる理由はないため、飲んでいないと考えるのが妥当でしょう。

*3:ついでに言うと、第3話の花見のシーンで四ノ宮しおりはワンカップ酒を飲んでいるため、成人済で酒が嫌いというわけでもないと考えられます。

*4:少なくとも木春由乃の性格や置かれた状況的に、そこまでの深読みをするような場面ではないのではないでしょうか?